「なぜあのひとは泣いているのかな?」とちいさな緑色のとかげが、しっぽをぴんと立ててそばを走りながら、たずねました。

 「なぜでしょうね、ほんとうに?」と、日の光を追って、ひらひらと飛びまわっていた蝶が言いました。

 「どうしたんでしょうね、ほんとうに?」と、しずかな、低い声で、ひなぎくが隣の花にささやきました。

 「赤いばらがほしくて泣いているのよ」ナイチンゲールが答えました。 「赤いばらがほしくてだって!」みんなは叫びました。

 「なんてまあばかばかしい!」と小さなとかげが、これはいささか皮肉屋さんなのですが、無遠慮に笑いました。

  しかしナイチンゲールは学生の悲しみの秘密がわかっていました、

 それで黙ってウバメガシの木にとまったまま、恋の神秘について考えるのでした。

top

 …そこでばらの木は、ナイチンゲールにもっとぴったりと刺を身に押しあてるように叫びました。

「もっとぴったりと押しあてなさいよ、ナイチンゲールさん。さもないとばらができあがらないうちに夜が明けるからね」

 そこでナイチンゲールは、いっそうぴったりと刺を胸に押しあてました、すると刺がその心臓に触れ、

はげしい差しこむような痛みが体をつらぬきました。いかにもひどい痛みで、しかもナイチンゲールの歌は、

いよいよもの狂わしくなるばかりでした、 

とゆうのは、死によって完成される恋を、墓のなかでも死ぬことのない恋を歌ったからでした。

オスカー・ワイルド

ナイチンゲールとばらの花

illumination